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触って、七瀬。ー青い冬ー

第6章 寒空の吸殻



「先生と僕は5歳からの付き合い」


「先生は親戚なんだ」


「父の妹の夫、叔父で」


「先生は幼い僕にたくさん教えた」




「大人しか知らない秘密をいっぱい」



「七瀬」



「先生はまず僕にオナニーを覚えさせた。
僕はもちろん知らなかった。それが何か」



「次はなんだったかな。
多分、先生は僕を大人の店に連れてったんだ」





「次は中学生で、もう最後までいった」





「もういい」





「先生は僕を犯したんだ。
痛かった。でも僕が頼んだんだって」


「七瀬!」

高梨が声を荒げて言ったので、
安心した。

僕は笑って謝った。


「…ごめん」

僕は解放されたようだった。

高梨がいなくなるという不安から。

高梨は怒ってる。

僕はもう、一人だ。

終わりだ。

「高梨、今までごめん。」

高梨は呆然とそこに座っていた。
何も言葉が見つからない、という感じだろう。

「…友達になってくれてありがとう」

高梨はもう僕を怒ってさえくれない。
とても悲しい。

僕はどうして生きているんだろう。

僕はずっと、自分に問い続けてきた。

先生と遊ぶことで、その問いを忘れようとしていた。

でも多分、高梨と会った日から、その問いは消えていた。

だって、そんなこと考える暇もないくらい楽しかった。

…でも、高梨がいなくなる今、僕はまたその問いを抱えることになる。

先生ももういない。

いるのは、自分だけだった。

「…ごめん、帰っていいよ」

扉の前に座り込んで、道を塞いでいた。
僕は立ち上がった。
扉を開けて、座っている高梨を見た。

「七瀬…」

高梨は僕を見ていたが、何も言わなかった。

「僕は大丈夫。高梨は明日学校でしょ。
早く帰った方がいいよ」

高梨は徐に立ち上がった。

あぁ、手からこぼれ落ちて行くみたいだ。

ピアノを弾いている時の感覚と同じだ。


いくら練習しても、音が外れる。

手が、違う音を掴んでしまう。

もう一度、もう一度。

根気強く練習しても、
いくら弾いても、叩いても、
音がこぼれ落ちていく。

《練習すれば、弾けない曲なんてないんだよ》

先生はそう言った。僕はその言葉を信じて練習していた。
なんであんなに練習していたんだろう。
特に、好きでもないのに。


僕はピアノが、好きだったのかな…

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