触って、七瀬。ー青い冬ー
第6章 寒空の吸殻
好きだった、のかもなぁ…
いくら練習しても音はこぼれるのに、
僕は馬鹿みたいに練習していた。
無心になって、音がこぼれないように、
音が思い通りになるように、必死に。
僕は、あの頃必死だった。
練習さえしていれば、先生は褒めてくれた、両親も満足そうだった。
でも、なんで必死だったんだ。
そんなに必死に頑張って、一体なにになるっていうんだ。
「馬鹿だなぁ…」
高梨は、部屋を出ていった。
夢じゃない。
夢じゃないよ。
本当に出ていったんだよ。
本当に僕は、全てを失ったんだ。
どうして生きているんだろう。
どうして泣いているんだろう、
どうしてくるしんでいるんだろう。
僕らはいつかみんな、死んでしまうのに。
いつか、忘れられてしまうのに、
どうしてこんなに必死なんだろう。
どれだけ頑張って生きても、
寿命は伸びないし、
たくさん生きたところで、
心臓はいつか止まる。
どれだけ人を愛しても。
どれだけ愛されても。
人は死んでしまう。
「馬鹿だなぁ…」
僕は、刃物を探した。