触って、七瀬。ー青い冬ー
第7章 二人の記憶
「…それで?」
二人はやっとハグを終えると、女性がこっちを見た。
「この可愛い子はどこの子?
また拾ってきたの?」
女性は僕の頭を犬を撫でるみたいに撫でた。
「麗子さん、あんまり変な冗談言うのやめろよ。こいつすぐ信じるから」
高梨がそう答えると、『麗子さん』と呼ばれた女性はロビーの奥へと僕達を誘導した。
歩きながら、麗子さんは無邪気に笑う。
「だって伊織ちゃん、困ってる人見ると放っておけないでしょ。今まで何人ここに連れてきたかわからないくらい」
ロビーの奥にはエレベーターホールがあり、そこにもドレスを着た若い女性が立っていた。
「お帰りなさいませ、伊織様」
その女性は深く頭を下げた。
「久しぶり」
高梨が微笑むと、女性は赤面した。
高梨はむやみに愛想を振りまくからひどい奴だ。
「ど、どちらの階をご利用ですか?」
「17」
「かしこまりました」
顔を赤くしたままの女性がすぐにボタンを押す。
「へぇ、珍しいわね」
麗子さんが言った。
「こいつはクラスメイトなんです」
「ふーん」
麗子さんが意味ありげに笑って僕を見た。
二人の会話はよく意味がわからない。
麗子さんがじっと僕をにこにこと見ている。
「あ…僕、七瀬夕紀と申します」
とりあえず、挨拶でもしておこう。
頭を下げて顔を上げると、麗子さんが目を輝かせていた。
「やだ、この子僕って言ったわよね!
可愛い〜!好き〜、ウチで雇わせて〜」
麗子さんが僕に抱きついた。
麗子さんからは薔薇の優しい香りがした。
「エレベーターが参ります」
「雇うって、こいつまだ17ですよ」
高梨は麗子さんから僕を引き剥がし、エレベーターに乗り込ませた。
「分かってるわよ!18歳になったら教えて?いつでも待ってるからね」
麗子さんがエレベーターの扉を抑えながら言った。
「は、はい?」
「じゃ、楽しんで」
麗子さんが扉から手を離した。
「いってらっしゃいませ」
女性が言うと、扉は閉まった。
「…高梨、ここがお前ん家?」
高梨はエレベーターの透明な床を除いた。
「家はない。今は学校の近くのマンションで一人暮らし。でも前の学校の時はここで暮らしてた」
僕はよく理解できなかった。
「俺さ、両親いないんだ」
僕も下を見た。
「10歳の誕生日」