触って、七瀬。ー青い冬ー
第7章 二人の記憶
「俺は何も凄くねぇよ」
高梨は僕の頭をぽんと叩いて窓から離れた。
「…高梨は僕と初めて会った時、覚えてる?」
「…」
高梨は黙って、窓に背を向けてあるソファに腰掛けた。
「…覚えてる」
高梨は両の手のひらを見つめていた。
「そりゃ覚えてるよな、2ヶ月しか経ってないし」
僕は2ヶ月前のその日を思い出した。
高梨は背が高くて顔も綺麗で、僕は少し悔しかった。僕には身長もないし、自分の顔も好きじゃなかった。
高梨は見た目だけじゃなく、バスケ部で運動もできるし成績も優秀だし、人当たりも良くてすぐに人気者になって、…完璧だった。
僕はその間も人と話すのは苦手だったし、取り柄は勉強くらいで運動は大嫌いだった。
勉強に加えて色々な才能がある高梨に比べたら、勉強ができるだけじゃちっとも太刀打ちできなかった。
高梨はきっと人と自分を比べたりしないし、僕にも他の人にも同じように親しみやすい雰囲気を持っていた。
「僕はやっぱり、いい印象持ってなかったな」
僕は苦笑いした。
僕ばっかり劣等感で苦しんでた。
「ひでぇな」
高梨は笑った。
「今はそんなことないって思うけど、
最初の頃は、高梨が怖かったんだ」
「前も聞いた、その話」
高梨は立ち上がってキッチンに向かった。
「高梨は完璧に見えたから」
僕は窓の外を見ていた。
今日の空は綺麗に晴れていた。
でも、街が明るすぎて星は見えない。
「お前って俺のこと超人かなんかだと思ってるだろ」
高梨がグラスに氷を入れ、何かを注いだ。
「思ってないって」
僕は振り返った高梨がグラスを二つ持って立っていた。
「…ありがとう」
部屋の中は暖かくて、氷もすぐに溶けていた。
「お金返すって、どうやって返すつもりなの?」
一口飲むと、苦いコーヒーの味がした。
「麗子さんの店で働いて返す」
高梨はまたソファに腰掛けた。
「麗子さんのお店って…」
《こいつ、まだ17ですよ》
《18歳になったら教えて?》
危ない…。
二口目のコーヒーがとても苦く感じた。
「まぁ、簡単に言ったらそこはホストクラブとキャバクラみたいなもんなんだけど」
コーヒーを吹き出しそうになって飲み込んだらむせた。
「た、高梨がホスト!?」
「あー違う違う」
高梨は部屋の東側を指差した。