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俊光と菜子のホントの関係

第2章 『俺と菜子』



 吉野と、とりとめのない話をしながら駅へ向かう。

 ……お。あともう少しで着きそう。


「……ねぇ、池崎」

「ん、どうした?」


 吉野が急に立ち止まった。俺の少し後ろで、申し訳なさそうに目を泳がしている。

 何だろ、忘れ物か?


「あの……さ……」

「……何?」

「私、実はさ……映画のチケット持ってるんだ。お父さんからもらったヤツなんだけど……今話題になってるアレ、知ってる?」

「え……? あー、アレ? そうなんだ。良かったじゃん」

「うん……それで、さ……」

「うん」

「明後日の日曜日……一緒に、観に行かない? 二枚あるんだ」


 と、カバンからチケットを二枚取り出して見せてきた。

 明後日の日曜日か……。特に今のところ用もないし、これから出来る予定もなさそう。確か父さんも母さんも出かけるって言ってたから、菜子もきっと友達と遊びに行ったりするだろうな。


「そうだな、行くか」

「えっ! ホントに?」

「あぁ。智樹とか、他のヤツも誘ってみんなで行こうぜ」

「っ……あ、でも……」

「俺達はチケット買えばいいし、それは吉野の友達と使ったりすれば――」

「そうじゃなくてっ……!」

「……え?」


 振り切るように強く否定されて、ドキッとした。『怒らせたか?』と一瞬憂えたけど……吉野は、


「わ、私……池崎と二人で行きたいのっ……」


 顔を俯かせて、でも目は上向きにして俺を見つめながら、声を震わせて言った。


「お……俺と、二人で?」

「っ……うん……」

「え? どうして……?」


「私っ……池崎のことが――好きなのっ……!」


「っ……よ……吉野……」


 予期せぬ告白をされてしまい、緊張が走った。

 吉野が、俺を……? そんな……。

 しまった。真剣な気持ちだったなら、軽はずみで『行く』とか『他のヤツと一緒に』とか言わなきゃ良かった。

 今になって思い返してみたら……吉野、顔が赤かったし、誘う声だけじゃなくてチケットを持つ手までも震えてた。

 その吉野を見ておきながら、全然気持ちに気づいてやれなかった。

 周りの言うとおり、俺ってやっぱ鈍いんだな。


 吉野の気持ちはよくわかったけど……断らないと。

 だって、俺は――



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