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俊光と菜子のホントの関係

第2章 『俺と菜子』


「吉野。気持ちはありがたいけど……俺は――」

「一度でいいからっ!」

「っ、え?」


 菜子を思い浮かべながら真剣な告白を断ろうとしたら、吉野の強い気持ちの一言に遮られた。


「一度でいいから……一緒に行ってほしいのっ」

「っ……吉野……」


 どうする……?

 吉野が真剣なのに、菜子を好きだと思ってる俺が一緒に行っていいものか……いや、良くないって。

 けど、勇気を振り絞って告白してくれたのに、『一度でいいから』だなんて健気に言ったりして。

 そんな吉野の切実な想いを、真っ向から拒否するのも気が引ける。かといって、気を持たすことも出来ないし……。


「お願いっ、池崎……」


 こんなに必死になって……。


「…………わかっ、た」

「っ、え……」

「二人で行こうか。映画」

「あ……ありがとうっ。すごく嬉しいっ」


 本当にこれで良かったんだろうか……。

 でも、もしかしたら……これで吉野に目が行ったりするかもしれない。

 他の女のコに、もうちょっと近くで目を向けてみてもいいかもしれない。

 菜子しか見えてない俺には、これはいい機会なのかもしれない。


 吉野があからさまに嬉しそうにしているそばで俺は、行くと決めてもまだ迷いが生じている自分の気持ちに、よくよく言い聞かせ続けていた。


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