
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「あっ。俊光君、見て見てっ。菜の花も咲いてるよっ」
線路の片隅で、花束のようにまとまって咲いている。電車が通りかかると、風に吹かれてゆらゆらと揺られる。
えへへ。私の名前の由来にもなっているお花が、はじめましての鎌倉でも見かけられるなんて、嬉しー。
「まだ見頃だから、もっと咲いているとこがあるかもな」
「だったらいいなぁー。菜の花ってどこでもたくさん見られるけど、好きだから、初めての場所でもいっぱい見てみたいもん」
「……そっか。なら良かった」
「へぇ? なら良かったって、何が?」
なんか含みのある言い方じゃない?
「いや、別に。こっちの話ってヤツだ」
「ふーん……」
変な俊光君。
「あーほらっ。あそこにも菜の花が咲いてるぞ」
「えっ、どこどこ?」
二人で寄り添い合って、窓の外の風景を夢中で楽しんでいると、次の停車駅をお知らせするアナウンスが、耳に入ってきた。
「おっ、もう降りる駅に着きそうだな。駅からちょっと歩けば、すぐに海だぞ」
「わぁーいっ。海海ぃー」
食べ歩きデート・お参りデートに引き続き、海のデートまで実現できちゃうなんて。鎌倉様々だよぉー。
海のデートと言えば……キレイな空をバックに、波打ち際の砂浜で、あははうふふとハシャギながら追いかけっこ……だよね。
私の妄想が、頭の上で、雲のようにもくもくと膨らんでいく。
(――あははっ。菜子、待てよー)
(うふふー。俊光くーん、ここまでおいでー)
(こいつぅー)
(きゃっ)
(ほーら、つかまえた。兄から逃げるなんて、いけない妹だ。キスしてやる)
「っ、きゃーっ、やっだぁーっ、甘ったるーいっ! 俊光君のバカバカバカーっ!」
「っ、バカはお前だっ! 電車の中で何を考えて身悶えして騒いでんだよっ!」
「はっ……! ご、ごめんなさぁーい」
私はお恥ずかしながらも、私にプンプンする俊光君にだけでなく、私を見てクスクスと笑う他の乗客さん達にも謝った。
えへへ……つい妄想が過ぎちゃった。
