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俊光と菜子のホントの関係

第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』


 ビクビクと怯える私とは違い、俊光君は足元の子犬に、パァッと優しい笑みを向けてしゃがみ込んだ。

「うわ、毛並みがふわふわ。お前、ポメラニアンだろ。飼い主はどこにいるんだ? よいしょっ、と」

「ちょっと、俊光君ってばぁっ!」


 俊光君に両手で抱き上げられた子犬は、嬉しそうにキャンキャン鳴き、しっぽも高速でふりふりふりふり。


「へぇー、ずいぶんと人懐っこいのな。なぁ、菜子も離れてないで、近くに来て見てみろよ。ほら、ポメラニアン可愛いぞ」

「ハッハッハッハッ……」

「っ! ひゃあーっ、無理無理無理無理ぃーっ!」


 俊光君が立ち上がって腕を伸ばし、舌を出してハッハするポメラニアンとやらを、ずいっと近づける。けど私は嫌で、更に2メートルほど追加して離れた。


「何だよ。まだ犬が苦手だったのか」

「当たり前でしょ! 知ってるクセに、しらばっくれないでよぉ!」


 からかうようにわざと訊いてくる俊光君にムカっときて、拾ってくれたキレイな貝を投げつけちゃいそうになった。

 そうなの。私、実は――犬が大の苦手なんだよぉー!

 それは、私がまだ幼かった頃。近所の家の庭にいた可愛い子犬と、鉄格子越しで仲良くたわむれていたの。

 したら、同じ庭にいたバカデカい親犬が、子犬を取られるとでも思ったのか。私に向かって、キバ剥き出しでガウガウ吠えながら、鉄格子を壊す勢いで突進してきたんだよぉっ!

 もし、あの鉄格子がなかったら……私は親犬のエサとして食べられて、お空の上の住人になっちゃっていたと思う。うぅ……今でも親犬の怒り狂った姿を思い出すだけで、さぶイボがゾワワーって立っちゃう。

 それ以来、私の中では『子犬と遊ぶと親犬に食べられる』というイメージが根強く付いちゃって、犬が苦手になった……というわけなの。

 テレビや動画で見ている分にはまだセーフだけど。リアルに近くで現れちゃうと……ご覧のとおり、もうアウトなんだよぉ。

 それに引き換え、俊光君はご覧のとおり犬が好き。一旦触れ合うと、ヨシヨシが止まらなくなるの。

 可愛いだろうけど……今日はデートなんだから、私だけをヨシヨシしていてよぉー。

 近づきたくても近づけない私をよそに、


「可哀想に。こんな可愛いのに苦手なんて……なぁ?」


 俊光君がポメ(勝手に命名)に顔を近づける。


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