
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「ペロペロ……」
「ぷはっ……はははっ、くすぐった」
「っ、あぁーっ!」
ポメが……俊光君の唇を、ペロペロ舐めてるぅー!
私がこうして3メートルも離れたところでガーンしているってのに、肝心要の俊光君は、もうすっかりポメの虜。
ひどい。せっかく俊光君を独り占めして、いいムードだったのにっ……ポメのヤツぅーっ。私がしようとしていた『海のデートでキス』を横取りしただけでなく、俊光君の天然キラキラ笑顔まで独占するなんてっ……あんまりだよぉーっ。
「ポメの泥棒猫っ!」
「何言ってんだよ菜子。コイツ犬だぞ」
「そうじゃないしっ!」
ダメ。このままだと……俊光君の心は完全にポメに奪われて……私の定位置である俊光君の左隣を、ポメに乗っ取られて……挙げ句、ポメの代わりに、私が犬として飼い主さんに連れていかれちゃう。そんなの嫌ぁーっ!
過去のトラウマにとらわれている場合じゃない。何としてでも、あのポメを追っ払わなきゃ!
怖くない怖くない。犬なんか、全然怖くないっ。屁のカッパの朝飯前だもんねーっ! と、自分に暗示をかけるように繰り返し言い聞かす。
んで、リュックを前に背負って身の守りを固めて。巻き貝の先っちょを武器にして、ポメに向けて突きつけた。
「やいやいやいっ、そこのポメ! 俊光君を返せぇっ! さもなくば、お前の目玉をツンツン突っついてやるぞぉっ!」
て、ポメを脅してるけど……やっぱり怖いよぉー。巻き貝を突きつけている手がブルブルと震えて、面白くもないのに膝がガクガクと笑っちゃってる。うわーん。これじゃあどっちが脅されているのか、わかんなーいっ。
「コラッ、子犬を突っつこうとすんなっ」
「人質は黙ってて!」
「人質って……」
俊光君を取り返すために、じわじわと距離を詰める。
あと1メートル……だったのに、
「キャン! キャンキャンキャンッ、キャアンッ!」
「うっひゃあーっ!」
ポメの連続キャンキャン攻撃に心やられちゃって、一気に約5メートルも離れちゃった。
うわぁーん、結局ダメだったよぉ。私の根性なしー!
涙の雨を降らしながら白旗を振って、降参……。
それからしばらくは、俊光君とポメの触れ合いを、5メートル離れたところで、指をくわえて見ていることしか出来ないでいた。
