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俊光と菜子のホントの関係

第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』



 ――引き取りに来た飼い主に、小さなポメラニアンを名残惜しく返した。途端、5メートルほど離れていた菜子が、すぐさま俺の元に駆け寄ってきた。


「うわぁーん、怖かったよぉー!
 俊光君がポメに取られなくて良かったよぉー!」


 うわ。コイツ、ガチで泣き出したぞ。

 俺は、グシュグシュする菜子の手を引いて海岸から上がり、道路沿いの歩道を歩きつつ、謝って宥めて慰めた。それでどうにかこうにか菜子の涙を落ち着かせた頃には、もうそろそろお昼の時間帯に入ろうとしていた。


「腹減っただろ。何か食いたいのあるか?」


 泣いたあとの腫れぼったい目を見ながら、あやすように訊いてみると、


「……俊光君と一緒に美味しく食べれるものだったら、何でもいい」


 いじけ気味にポツリと答えた。

 菜子のヤツ。俺の腕にガッツリ絡み付いていて離そうともしない。砂浜で拾ったキレイな巻き貝も、しっかり握っていて捨てようともしない。

 今の菜子、なんかちょっと、赤ちゃん返りをした子供が親にすがりつく姿に似ているな。なんてことは、空気を読んで口に出さないでおくけど。

 しかし、いくらポメラニアンが可愛かったからとは言え……俺、夢中になりすぎた。そのせいで、菜子が怖がって不安がって、俺にずっと近づけないでいたもんな。犬嫌いのことを、からかっちゃったりもしてさ。さすがに、可哀想なことをした。

 そう思っては反省するばかりの反面……俺を取り返そうと、小さなポメラニアン相手に全身震わせながら、今時やいやい言って果敢に立ち向かっていこうとする、あの必死な菜子。ポメラニアン以上に可愛かったから、もう一度見てみたいなんて考えてしまう、反省の色ゼロな俺もいたりする。

 たくっ。お前ってヤツは……。

 俺と少しでも長くデートしたいから早朝に叩き起こした、なんて言い。

 いつもと違うコーディネートと髪型は、妹なのに、ちゃんと彼女にも見えてしまうぐらい、よく似合っていて。

 それでいて、デートが終わるまで俺を独り占め出来ると、嬉しそうに笑う。

 ホントに……朝からずっと可愛くて、ドキドキさせられて、困るな。


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