
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「よし、わかった。一緒に美味しい物を食おう。そんでもって今度こそ、ちゃんと半分こしような」
「…………うんっ」
良かった。菜子、やっと笑ってくれた。
今回は、コイツを喜ばすための誕生日お祝いデートなんだから、これ以上は悲しませないようにしないと。
『サプライズ』も用意してあるわけだし。
それも、菜子が喜んでくれるかどうか……だけどな。
どんな反応をするのかを想像しながら、あどけない顔を見下ろす。と、菜子に不意に見上げられて、パッと目が合ってしまった。
「俊光君、どうかした?」
「いや。えーと……美味しそうな店が近くにあったりしないかなと思ってさ」
さりげなく視線を反らして、辺りを見渡しながらそう言った。
菜子に隠し事を悟られないための、誤魔化しの行動だったのに、偶然にも、
「……あ」
道路を挟んだ向かい側に、お店らしき白い建物が目についた。
何となく気になったから、試しに近くまで行って見てみようと、菜子を誘って横断歩道を渡り、建物の手前まで来てみた。
したら、やっぱりお店で。出入り口のすぐ横の真っ白い壁に、
『洋食キッチン めえめえ』と、黒色の丸文字で大きく主張していた。
壁に直接文字が書かれているように見えたけど、ステンレスで出来た切り文字だった。壁から浮かせた状態で付けられている。他にないとこ見ると、これがこの店のメインの看板なんだろうな。
にしても『めえめえ』って……
「変わった名前だな」
「可愛い名前だねっ」
俺と菜子の感想が被った。内容までは被らなかったけど。
「洋食屋の名前としては変わってないか? めえめえだぞ」
「可愛いじゃん。メリーさんみたいで」
「メリーさん? ……あぁ。あの、羊がテーマの童謡な」
本当は、前もって調べだしたり、人から教えてもらったりした店を、何軒かピックアップしていたけれど……
店名の物珍しさと、立て看板の『地元の新鮮な食材を使ったメニューも取り揃えています』という謳い文句と、
「俊光君、見て見て! 『釜揚げしらすピザ』だって! いいなぁコレ。絶対美味しいヤツじゃん!」
まだちょっと沈みがちだった菜子の目が、ピザで途端にキラキラと輝きを取り戻したのとで、
お昼はここに入ることにした。
