
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
更に菜子は、向かいの席から身を乗りだす。隣の席に置いたトートバッグをまじまじと見ては、不思議そうに目をしばたたかせてくる。
「大きめのバッグをパツパツに太らせちゃって。一体、何がそんなに入ってるの?」
「え……何がって……普段の持ち物を入れてるだけだぞ?」
とか言ってすっとぼけながら、バッグを腕でさりげなく隠す。が、菜子には通用しなかったみたいで、
「うそぉー、普段の荷物じゃないよぉ、それ。俊光君のプライベートバッグ、いつもガリガリに痩せてて、空気みたいに軽そうだもん。
それなのに、今日のは……どこかにお泊まりするみたいな膨らみ方だよ?」
荷物のことを、容赦なく突っついてくる。
たくっ。変なとこ鋭いな、コイツは。こんなことなら、スープをおねだりされる方がまだマシだった。
「ははは、何言ってんだよ。気のせいだって……あ、そうだ。さっき、鳥の形をしたサブレーを買っただろ? それが入ってるからだ」
「俊光が買ったの、四枚入りの小さい箱二つだけじゃん。それだけでそこまでパンパンになるわけないでしょー」
……そりゃそうだ。誤魔化すの下手くそかっ。
足掻けば足掻くほど、どんどん苦しくなる。
やっぱそうだよな。どう見ても普段の量じゃないよな。俺も、隠しきれてないことは、荷物を詰めた時からずっとわかってた。
出来ることなら、まだ内緒にしておきたかったんだけど……ここまで突っ込まれだしたら、もうしょうがない。ちょっと早いけど、ここらでネタばらしするか……
「お待たせしましたー。釜揚げしらすピザでーす!」
追い込まれた俺のピンチを救うかのように、母性溢れるスマイルの店員さんが、湯気の立つ丸い皿を持ってそばに来た。
「はわわわわぁーっ、美味しそー!」
熱々のピザがテーブルの上に乗った途端、菜子の緩んだ口元から、たらりと光るものが。
ピザのすぐあとに、トマトソースパスタも置かれる。となれば、もう菜子の意識は、見るからに怪しい俺の荷物から、見るからに旨いメイン料理へと、完全に向けられた。
「俊光君、早く食べよーっ。私、よそってあげるね!」
「あぁ……ありがとな」
すごくホッとして、胸を撫で下ろした。
良かった。店員さんに感謝だな。
