
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「ねぇねぇー、それおいしーい?」
テーブルの端で顔をひょっこりと出している女の子は、くりくりの目で、俺と菜子を交互に見ながら、同じ事を問いかけてくる。これは、ちゃんと答えるまで訊き続けるパターンだな。小さい頃の菜子もそうだったから(……もとい、今現在の菜子もそうだから)わかる。
「あぁ、スゴく美味しいよ。なぁ、菜子?」
「あ、うん。美味しすぎて、頬っぺたが下まで落っこちちゃう」
二人で正直に答えてあげると、女の子は、にぱぁーと嬉しそうに顔を緩ませた。
……まさに、天使の微笑みだな。前髪を留めてるヘアピンのクマさんも、女の子と一緒に微笑んでいるように見えて、可愛い。つい頭を撫でてしまう。
ヨシヨシをすると、女の子はもっと笑顔になり、
「ねぇーパパぁー! キレイなおにいちゃんと、オッパイがおおきいおねえちゃんが、おいしいだってー!」
「いっ……!?」
「へぇっ!?」
俺に関して間違った情報と、どうしても目立ってしまう菜子が抱えているコンプレックスを、大きな声で元気良く、店内中に響かせてくれた。
キレイと言われた俺は、変にハードルを上げられて困り。おおきいと言われた菜子は、恥ずかしそうにして胸を隠す。
子供の無邪気は時に酷だと痛感。
ていうか……客は今のところ、俺と菜子以外見当たらないのに、女の子が呼ぶ『パパ』とやらは、一体どこにいるんだ? いるなら、早く女の子を止めてほしい――
「――コラッ! お店の中では『パパ』じゃなくて、『店長』と呼べって言っただろっ!」
「……え?」
カウンターの奥から――白いハンチング帽に、白いコックスーツを着た長身の男性が、姿を現した。
え……あの人が、この子の父親? ていうか……店長?
実際に現れたら現れたで、クエスチョンマークが浮かんでばかりだ。
男性は、俺達が座るテーブル席まで歩み寄り、女の子の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。
この人も、女性の店員さん同様、母さんと同じぐらいの歳を重ねてそうに見える。
