
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「だからかー。お兄さんを初めて見た時、他人とは思えなかったのは。アイツとは……いろいろとありすぎたからなぁ」
俺に元カノの面影を重ねて、しみじみと思い出さないでほしい。スゲー嫌だ。
「ねーパパぁー、『もとかの』ってなぁに?」
純粋な眼差しで質問をする女の子に、店長さんはしゃがみこんで目線を合わせた。
「いいか? 元カノと言うのはだなー……ママと結婚する前にパパが付き合っていた、昔の彼女のことを言うんだぞー。
アイツはな、ムカつくぐらいキレイだったんだけど、胸が小さくて、誰に対しても遠慮がないズゲズゲした性格でさー。気の強いとこは……ママにも似てるかな。
それに、なんと言っても、あのテクニック。アレはなかなか気持ち良かったよなぁ……」
「いっ!?」
だからっ、また俺を見て元カノの面影を重ねて思い出すのはやめてくれって! しかも、『テクニック』のくだりのとこで、遠い目をしてっ! これでも俺、菜子とデート中なんだけど!
頭に来て、ホントにそう言ってやろうかと、口を開きかけたら……
「っ、いでででででっ!」
また俺を救うかのように、女性の店員さんが登場した。スマイルを崩さないまま、店長さんの片耳を引っ張り上げて、無理矢理立たせる。
「元カノをネタにして美青年をナンパするわ、まだ四歳にも満たない娘に、いらん話をベラベラするわで。まぁー、なんて素敵な旦那様なんでしょう」
スマイルを保っているけれど、トゲを感じる喋り方と、こめかみの青筋が、店長さんへの怒りを物語っている。俺にも恐さが伝わってきて恐縮してしまうのに、女の子はというと、それをキャッキャと面白がって見ている。
「いででっ……い、いやぁーそちらこそ、今日もなんて素敵な奥様なんでしょう。もうね、元カノよりも、君の方が断然キレイだよ」
「そりゃどうもー」
……なるほどな。この女性の店員さんは、この店長さんの奥さんなんだ。妻の圧力、ってヤツか。
「どうもすみませんねぇー。うちの娘と、うちの主人がお邪魔したみたいで」
「い……いえ……」
スマイルを向けてオホホと漏らす店員さんに、俺は菜子と苦笑い。
いや、ホントに……いい店に来ちゃったよな。
