
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「いつちゃん、ただいまー。いい子に店番してた?」
「うんっ、してたー!」
「エラいねー。いいコいいコ」
中学生の子に頭を撫でられると、『いつちゃん』と呼ばれた女の子は、えっへんと誇らしく胸を張る。一番上のお姉ちゃんに続いてか、他の子らも代わる代わる、いいコいいコしだす。
俺も昔、菜子に何かしらのことで褒めては、『いいコいいコ』と頭を撫でていたっけ。懐かしいな。
女の子達を微笑ましく眺めて、思い出を重ねていると……
ふと、俺と中学生の子の視線が、バチッと合った。
「い……いらっしゃいませっ! ようこそ、めえめえへっ!」
「えっ、あ、はぁ。ど、どうも……」
急にハリキッた声を出して、パタパタとテーブルのそばに来た。他の子達も、一番上のお姉ちゃんのあとを追って寄ってくる。
俺と菜子は、賑やかな五人姉妹に、あっという間に囲まれてしまった。
「パパ、こちらのお客さん、知り合いなのっ?」
中学生の子が、興味津々そうにして訊く。
「いや。たまたま入った一見さんだよ。
それと、店では『店長』だっつってんだろ」
「あの、はじめましてっ。私、この店の長女で、一紗(かずさ)と言いますっ。中学一年生ですっ。それからー、」
「おい無視かよっ」
ムッとする店長さんをそのままに、中学生の子は他の子の紹介もしだす。
「赤いランドセルが小五の次女・二海(ふうみ)で、
水色のランドセルが小二の三女・三久来(さくら)。
それと、幼稚園年長の四女・四穂(よつほ)に、
店番をしていたこの子は、一番下で三才の五津菜(いつつな)です。
私達、生まれた順にちなんで、名前に漢数字が入ってるんですよー」
勢いがあって押されてしまう。
「そうなんだ……。みんな、可愛くていい名前だね」
「はいっ! ありがとうございます!」
一番上のお姉ちゃんが、一番元気いいのな。
こうして俺と菜子が戸惑っていても、五人姉妹は臆することなく、近距離で笑顔を向けてくる。
随分と人懐っこい子達だよな。さすが、初対面の俺に遠慮なく『元カノに似ている』と言い放つ店長さんと、母性溢れるスマイルを自然と出せる店員さんの子供なだけある。
