
俊光と菜子のホントの関係
第27章 特別編『菜子の誕生日お祝いデート(前編)』
「はぁー……でもいいなぁー。お兄さんみたいに、カッコよくて優しそうで頭良さそうなお兄ちゃん、私、ほしかったんだぁー」
「……えっ?」
「ぶっちゃけ、お兄さんは私の理想の兄像にドンピシャなんです! 一目見た瞬間ビビビと来て、『この人だぁー!』と思ったんです!
なので、もし良かったら――私達のお兄ちゃんになってもらえませんかっ!?」
「え……えぇっ?」
なんというお願い事をぶっこんでくるんだ、この子は。他の子達まで、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と口々に呼び出すし。
「おいおい一紗。マジで言ってお客さんを困らせるなよー」
つい数分前、俺を困らせていた店長さんが何食わぬ顔で、中学生の子にそう言った。
「だって、うちお兄ちゃんいないし。男は、ちゃらんぽらんな父親しかいないし」
「コラッ、誰がちゃらんぽらんだっ!」
「ねーだからいいでしょー、お兄さんをお兄ちゃんにしてもー」
「いや、あの、俺は……」
店長さんの言うように、マジで言ってくる、思春期の中学生の子。そんな相手に、どう対処したらいいのやら……。迷いながらも、どうにか上手く言って場を逃れようとしたら、
「だっ……ダメぇーーっ!!」
「っ、菜子っ?」
菜子が慌てて席を立ち、俺を庇うように間に入ってきた。
「このお兄ちゃんは、私のお兄ちゃんなのっ! かけがえのない、大事な大事なお兄ちゃんなのっ! だからっ、ダメぇーっ!」
「な……菜子……」
ワイワイわちゃわちゃと賑やかだった店内が、菜子の切実な訴えによって、水を打ったようになった。
あー……俺、もうダメだ。ポーカーフェイスではいられない。
ポメラニアンの時みたいに俺を取られまいと必死になる菜子に、顔がもう緩みっぱなしだ。
