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たけるとみかる―双子みたいな幼なじみ―

第3章 杉並実果留 






「――あら、実果留ちゃん!?」

「あは。ただいま。武ママ……」


 玄関のドアを開けたら、武ママが笑顔で出迎えてくれた。その表情につられるように、私も笑顔を意識した。


 あーあ……結局来ちゃった。

 武への想いが抑えきれなかったのが、この行動によって表れている。


「ずいぶんと早かったのねー。今日はデートじゃなかったの?」


 うっ……さっそくツッコミが。


「えっと……今日は中止になったの。行く予定だったプラネタリウム、休館だったから……」


 玄関に入る前から考えておいたウソを言った。


「……へぇーそうだったのー。それは残念だったわねぇ」

「うん……」


 良心がチクチクして痛い。


 武ママ、ごめんなさい。

 このウソ、ちょっと無理があるかなと心配だったけど、武ママが素直で良かった。

 もし、夕崎君に言ったウソを武ママにも言ったら、絶対武が責められるし、家に帰って寝なさいとか言われるかもだから。


 はぁ……こんなウソばっかりついちゃって。

 私は本当に、『なんて女』……だろー。



「あの……武は?」

「おかげで今、グッスリ眠ってるわよ。まだ熱はあるけど、それでも少しずつ下がっていってるから大丈夫でしょう」

「そっか……良かった」

「ありがとうね、わざわざ来てくれて。乃莉(のり)ちゃんも武を見舞ってくれたのよ」

「ママも? そうなんだー……」


 武……やっぱり眠ってるんだ。

 それでもせめて、顔だけでも見れたら……


「武ママ、あのっ――」

「いいわよ。どうぞー」

「えっ?」


 武ママは私の気持ちを汲み取ってくれたかのように、玄関マットにスリッパをそっと置いてくれた。


「武、目を覚まして実果留ちゃんがいきなりいたら、きっと熱もぶっ飛んじゃうぐらいにビックリするわよー? ふふっ」

「武ママ……」

「お見舞いはもちろんだろうけど……朝の仲直りしにも来たんでしょ?」

「あ……」


 私の考えてること……見事に見抜かれてる。


「何があったのかは知らないけど、あのコにも謝る機会を与えてあげて?」

「……はい!」


 武ママ、ありがとう。


 私は武ママの優しさをありがたく思いながら、家にあがってスリッパに履き替えた。



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