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官能マシン

第1章 官能マシン

 退社間際の5時前のこと。ピピーピピーピピー、例の耳障りな呼び出し音が鳴る。デスクでパソコンに向かう信一とは反対に、今日もOL1年生の慶子のポケベルが鳴っていた。相変わらずのデートの誘いである。慶子は小さな液晶画面を見て大笑いしていた。
 信一はゲラゲラ大口を開けて笑う慶子を見てただただあきれていた。
「近ごろの女の子はどうなっているの?」
 信一にとって慶子は新人類だった。
 ポケベルは確か受信専用だから電話のようなテンキーはないはずである。信一は不思議に思って慶子に聞いた。
「……ポケベルに何でテンキーがあるの?」
「え、係長、知らないんですか? これぞ新製品! 送受信可能の携帯電話なのでーーす」
 どや顔をした慶子が答えた。そして周囲を見計らってから、紫の唇と死に化粧をした病人のような生気のない顔を信一に静かに寄せてきて言った。
「これだと、電話みたいに声を出さなくて文字の会話で済むんです。ちょっと、エッチな話でも誰にも聞かれずできるんですー」
「エ、エッチ?な、話し? えっ? そうなの、それを使って、そんな会話してるの?」
 信一はあきれながら聞き返した。
「やだなー 今はフリーセックスの時代ですよ! それでも、内緒話、秘密の話が、刺激的なんですーー たまらないんですー もう燃えてきちゃうー」
 慶子は長いとがった舌をねっちょりと出すと、妖艶にゆっくり孤を空中に描いてから上唇をなめ回した。うつろに遠くを見つめて、目は潤んでいる気がした。それを見て思わず信一はゴクンと生唾を飲みこんだ。

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