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官能マシン

第1章 官能マシン

 翌日、午後6時。係員は退出し、信一だけになった事務室で、携帯電話の呼び出し音がまた鳴った。
 ピピピー
 急いでメッセージを見た信一はホッとした。
「シゴト ジュンチョウ ダヨ シンイチノ オカゲ ジュン」
 メッセージからは相手の話し方は分からない。どんな女だろう。信一は名前と年を教えてほしい、と打ってみた。
 名前はジュンコ、年は20才。偶然にも妻の名前と同じだった。間違い電話の女が信一に妙に好意的なことが不思議だった。まるで長く付き合っているかのように信一のことを知っている様子だ。
 ふと、謎の女に会ってみたい思いに駆られた。駄目でもともと。信一は、会いたい、と一言だけ打った。
「Aエキ キッサフルート 7ジ マツ ジュン」
 思いがけない返事だった。
 信一は退社するなりA駅に向かった。A駅にある喫茶フルートは、結婚前、純子とよく待ち合わせた店だった。
 7時10分前、信一は胸をドキドキさせ、喫茶店に入った。店内はアベックで一杯だった。見回してみてからやっと気が付いた。実は女の顔を知らなかった。
 女は現れないまま、時計は8時を回った。賑やかだった店内のアベックもてんでにそれぞれの目的の場所に散って行ったようである。信一だけが静かな店内に取り残された。
その時。携帯が鳴った。
「スコシオクレル マッテテ シンヘ ジュン」
 やはり来る。しかし、9時だ。女にメッセージを入れようとテーブルに置いた携帯電話を見つめていたとき、突然脇から声を掛けられ信一はびっくりして顔を上げた。
 顔を上げると、なんと30年前の若々しい妻の純子が笑顔で立っていた。
「遅れてごめんなさい。やはり待っててくれたのね、信」
 そう言うなりテーブルを挟んで信一の前に座った。その女の顔を見て自分の目を疑った。

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