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蜘蛛女

第1章 蜘蛛女

 僕は天井裏へ引き上げられた。窓のない周囲は真っ暗闇で奥の様子は見えない。引き込まれた天井の穴から光が差して、その周囲をうっすら照らしていた。頼りない光の中で、動けない自分の体を見ると、手も足も、体中、白いヒモでぐるぐる巻きに縛られていた。目が暗闇に慣れてくると、前髪をたらした白装束の着物を着た女が、僕を見下ろして立っているのが分かった。前髪の間から時々見える瞳が緑色に光っていた。僕は長い黒髪に覆われた頭を見て、歯がカチカチと音を立てていた。
 白装束の女は、僕が見えていることを確認すると、腰を静かに下ろし、床の上に正座した。両手を床に付け、頭を床に付けるように下げた。
「あなたを愛するあまり、手荒な扱いをしてしまいお許しください。私はこの寺に住みつく蜘蛛(くも)女でございます」
 女の低く響く声を聞いて、僕の歯はさらにカチカチ音を立てた。恐怖のあまり叫び声すら出せない。
「あなた様を夫としてお迎えさせていただきとう存じます」
 一方的な愛の告白に動転したが、体を縛られて拘束されている状態で、何も言えなかった。下手に刺激したら、この異常者に何をされるか分からない。
「固めの口付けにございます」
 女の唇が顔に近づいてきて、首筋をがぶりとかじられた。痛くて涙がこぼれた。けれど、ずきずきする痛みの後に押し寄せる気持ちのいい快感が体中を駆け巡る。とても穏やかな気分になり、自分でも信じられない変な感覚を味わっていた。その後、女はあらゆる部分をかじった。僕はかじられるたびにくぐもったうめき声をあげた。あらゆる体の部分をくまなくかじれていく。ううううぅー 僕はうめき声をもらす。痛みと、快感の中で、まだ、かじられていない部分に思い当たった。あそこをかじられたら、僕は激痛に耐えかね死ぬだろう。女がかじるのを止めて、僕の顔をのぞき込んできた。ふふふふ 顔が前髪に隠れて分からないが、笑っていることはすぐに分かった。

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