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幸せな報復

第25章 御手洗貞子

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 貞子は、茶室に身を寄せている沢子と娘を小椋海星から匿っていた。

 その海星がビジネスで成功を収め、今では街の行政までも実質的に支配している――そのことを、夫の総次郎から聞かされた。

 海星のやり方は苛烈だった。目的のためなら、目を覆いたくなるような暴力も平然と振るう。競争相手には容赦がなく、邪魔になる者は次々と潰してきたという。

 七年前には、沢子の家族をいとも簡単に殺している。

 そして、そのとき拉致・監禁した沢子に対して、毎日のように非道な行為を繰り返していたことも、宗男から聞かされていた。

 貞子は、海星について新たな噂や話を聞くたびに、背筋が冷たくなった。

 キャバレー「逢瀬」で客として接していた海星とは、まるで別人ではないか。

 そんな男が、これからも店に来るかもしれない。

 そう考えると、店に出ることさえ怖くなってくる。

 宗男は言った。

「海星と関わり合わないようにするなら、この街を出るしかないと思う」

 貞子にも、それしか方法がないように思えた。

 だが――。

 海星がこのまま権力と力を増していけば、いずれ日本全体を支配しかねない。

 もし本当にそんなことになれば、今ここから逃げたとしても、いつか海星の支配から逃れられなくなる。

 それならば、まだ行政も政府機関も正常に機能している今のうちに、何とかしなければならない。

 貞子の夫、御手洗総次郎は、千葉県を中心に展開する大手量販店「御手洗グループ」の会長である。

 本来なら、警察に海星の横暴を訴え、沢子母娘を保護してもらうのが正しい道だろう。

 だが、すでにこの街の警察は、海星に力を奪われているようだった。

 では、どうすればいいのか。

 貞子には、警察を動かすような力も人脈もない。

 自分にあるものといえば、愛想のよさと、人の気持ちを察して動くことくらいだ。

「……私にできることから始めるしかないわね」

 貞子は小さくつぶやいた。

 だったら、その愛想のよさを使えばいい。

 まずは夫の総次郎に、何とかしてこの街を救うよう働きかけてみよう。

 できることを何もしなければ、取り返しのつかないことになる。

 とはいえ、還暦を過ぎた総次郎が、果たして自分の頼みを聞いて動いてくれるだろうか。

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