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幸せな報復

第25章 御手洗貞子

 貞子は沢子母娘を屋敷に匿い、一段落したところで出勤することにした。

「姉さん、俺は先に出るけど、姉さんもいつも通り出勤してくださいね。店を休んだりしたら、すぐに海星の耳に入るかもしれないから」

「分かってるわ」

 宗男に言われた貞子は、いつもと同じ時間に家を出た。

 昨夜の脱出作戦から、ほとんど眠っていない。
 それでも、何食わぬ顔をして店へ向かった。

 逢瀬の玄関を入り、バーカウンターの前を通りかかったときだった。

「貞子姉さん」

 宗男が声を掛けてきた。

「なに?」

「誕生日、おめでとうございます」

「えっ……?」

 貞子は足を止めた。

「私の誕生日?」

「そうですよ」

 言われて、ようやく思い出した。

 そういえば、今日は自分の誕生日だった。

 昨夜は脱出作戦でそれどころではなかった。それに、沢子母娘は今も屋敷の中で、いつ海星に見つかるかと怯えながら身を隠している。

 そんなことばかり考えていて、自分の誕生日などすっかり忘れていた。

 それなのに――宗男は覚えていた。

「これ、俺からのお祝いです」

 宗男は、貞子がいつも好んで飲んでいるカクテルを、カウンターの上にそっと置いた。

「えっ……どうして?」

「どうしてって……誕生日だからですよ」

「そうじゃなくて……」

 貞子はグラスを見つめた。

「どうして、今日に限って?」

 逢瀬のホステスたちは、客からプレゼントをもらうことを期待して、誕生日の日付を気に入った客に教えていた。

 だが、宗男はこの店で何年も働いているというのに、ホステスにカクテルを出すようなことは一度もなかった。

 まして、かつて貞子の部屋に居候していた頃でさえ、誕生日に何かを贈ってくれたことなどない。

「うぅん……ありがとう」

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