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偉大な魔道士様に騙されて体を捧げることになりました

第1章 魔道士との交渉



誘導された長椅子に着席して、ふと彼を見る。

(綺麗な方…)

男性に綺麗という表現はおかしいかもしれないが、自分の目に映る魔道士はおとぎ話に出てくるような魔法使いや魔女の容姿とは全く異なっていた。

全身を覆いかぶす黒いローブも、象徴である杖も持ってはいなかったのだ。

そこにいるのは彫刻で彫られた様に整った顔立ちにスラリと伸びた長い両足、布の上からでもわかる引き締まった体に白を基調とし装飾の施された貴族服をまとった美男子だ。


「ステラ嬢?」


「あっ…失礼致しました、今日は魔道士様に僭越ながらお願いがあって来たのです」


数秒、瞬きすることを忘れ魔道士に見入ってしまった私は耳によく通る声で現実に引き戻される。

(私ったら見とれている場合じゃないわ…)

ぶんぶん、と煩悩を振り払うように頭を小さく振ってから今一度魔道士の方を真っ直ぐ見つめ直す。


「…公爵家の令嬢が直々に頼み事とはどんな内容か興味があるな」


優雅な動作で紅茶を飲む魔道士は相変わらず穏やかな笑顔のままだった。


「ひと月前から奇病にかかってしまった家族のために魔法医術の力をお借りしたいのです…」


「…魔法医術というのは、つまり治癒魔法だね」


はい、と頷くと先程までの柔らかい魔道士の表情が眉を下げた。

ティーカップを置く魔道士の次の言葉を静かに待つ。


「令嬢が正規の手続きを通さず、わざわざ僕に直接会いに来たのは…それほどご家族の容態が急を要するってことかな」


その通りだった。

本当であれば、正規の手続きを踏んで王国から許可が出た場合にのみ魔道士の仕事として降られるわけだが全ての手続きを終えるまで早くて三ヶ月ほど

家族にはそれを待っている時間の余裕はなかった。



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