偉大な魔道士様に騙されて体を捧げることになりました
第1章 魔道士との交渉
「手続きを踏まず、魔道士を私利私欲のために使うことは罪に問われるということも、もちろん知っているんだろう?」
「…はい、もちろんです」
国唯一の魔法使いを私利私欲のために行使することは例え王族であっても禁止されている。
法を犯せば罪となり、罰を受けるのが道理
私は全てを覚悟をした上でここまできたのだ。
「もちろん尊い命を救うためならいくらでも力になりたいと思う。
…しかし心苦しいけれど、この頼みを聞くことはできない」
魔道士は真剣な表情で私を見つめ返す。
なぜですか、と顔が歪んだ。
「残念だけど、王宮から緊急の仕事が入っていてね
早朝に出発しないといけないんだ。ここに帰ってこられるのは何日後かわからない」
「そんな…それでは間に合いませんっ」
家族はもって数日の命だと言うのに魔道士から告げられた言葉はあまりにも受け入れられないものだった。
「報酬はもちろん、穀物が盛んな領地もお望みでしたら全財産もお渡しできます…ですから、どうか私の家族を…」
助けて欲しい、と琥珀色の瞳から雫が落ちる。
両膝をつき神に懇願するように両手を胸の前で握った。
「っ…。報酬の話ではないんだ、令嬢の気持ちは痛いほどわかるけれど…」
言葉を濁す魔道士は眉を下げて私を見つめる。
「魔道士様…っ、どうか…お望みになることでしたらなんでも致します…!
家族はもう数日の命だと…、どうかお願いします…」
公爵家の令嬢ともあろう人間がこんなにも取り乱し、泣いてすがるなど決してあってはならないのに
家族を救うことの出来る唯一の希望を捨てることができなかった。